※この話はフィクションです
僕は原罪を背負って生まれた一人の子羊さ。そんなキザなセリフから1日が始まる。僕の朝は少し人よりは遅い、みんなが6時の目覚ましをまさぐる間、僕は心地よい余韻に浸る。
僕の名前は菅野契(すがのちぎり)。職業はSEと言われている。この仕事は選ばれた人間だけが生き残れる世界。才能がなければ、生き残ることは難しい。
先月、同じ技術課の斎藤がおもらしをして大騒ぎになった。朝の朝礼での点呼の後、彼は徹夜でシステムのリリースを行っていた。斎藤は少し小肥りで、よくいるような、ちょっと肌の色の青い人の良さそうなやつだった。だが、リリース当日にバグが発覚した。
バグ、というと多くの場合、技術系のうちわの人間も、また、外野も、一個の虫を想起するだろう。でも実態は違うんだ。斎藤は行き詰まっていた、なぜなら、このバグには終わりがないからだ。やつは大規模プロジェクトに放り込まれて、設計からクソだった。
おっと、バグの話に戻ろう。バグとは、要はものを作るときに、その物に「矛盾点」や「欠陥」が存在する、ということだ。人間はミスをする。例えば、いまこうやって、というより、これはダイイングメッセージなんだけど、僕がこうやって書いている日記だっててにをはは間違える。特に、論理的な思考ができないやつ、論理的な文章の組み立ての訓練をしなかったやつは、その文章はいびつになり、文章として機能しなくなる。
割れ窓理論よろしく、一つの欠陥は複数の欠陥をうむ。その複数の欠陥はさらにその先の欠陥をうむ。こうやって等比級数的に「矛盾点」や「欠陥」は膨れ上がっていく。
斎藤はリーダー的なポジションの人だし、あまり組織内の政治的闘争とか、そういう大人のアレの事情なんかで勝てるようなやつじゃなかったんだと思う。
彼の中で、時間がどんどん砂時計が落ちて行くように消えて行く、なのに他のやつらが(ここにはやめたやつら、も含む)残していった「欠陥」の尻拭いをする、そして時間が湯水のように消えていく。
そして、おそらく彼の頭の中で、というか、彼の体の細胞が、彼を解放してあげたかったんだろうな。
あたりに飛散する黄色いそれと、アンモニアの嫌な臭い。女子社員たちが悲鳴をあげ、男たちはそこにいる物体化した社員を見下した。
それからしばらくして、一人の地味な女の子が、バケツと雑巾を持ってきた。
「あの子は….」
「確か総務の張さんですよね」
張さんは黙々と雑巾を絞り、その場を拭く。
「ワカンねぇな〜」「でもすごいね、いい人だね」
外野からの見物人たちは口々に褒め始める。もちろん、心の中では下にみてるんだろうな。僕の性悪説的な疑心暗鬼でただの間違った予測変換とか、憶測で、人間の本質を悪いものに捉えがちなだけなのかもしれないけど。
こうしてる間だって、僕の体は何一つ動いてない。
そこに何人か別の子が集まって、張さんに加勢した。すげえな張さん、嫌な顔一つしねえのかよ。
自ら汚れ役を買って出る人間は、きっと信頼できる(人に寄り添える)人間だろうな。
でも、要領よく華やかに勝てる人間は、この場から真っ先に逃げる人間だろうな。
くだらないことをぐるぐると考えて、僕の体は何一つ動かない。
(続く)
https://note.mu/suganokei/n/ne75b4bc5e43a
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