Tuesday, March 22, 2022

SNSの時代における「知性」とは

 あんまり煽り気味なタイトルをつけるのを好まないが、昨今のもろもろのSNSを経由しての「マイクロ・プロパガンダ」やそれがもたらす結果としての「分断」を観察していて、個人的な所感をまとめたい。

昨日両親の家に行き、まあ僕個人としては親のことは・・・何があっても血がつながっているわけだし、根っこでは「うん、親だね。愛しとるで」というスタンスは変わらない。特に、親父は僕が生まれたときは異常なまでに喜んでくれたし、僕らを学校にいかすために相当苦労してきたし、母さんも僕をここまで育ててくれたわけだし、そういうことについて、原則感謝はしている。

ただ、親だからこそ言いたいが、今のうちの両親はだいぶ「SNS」に毒されていて、結構まじでやばい状態になっている・・・というのもまた事実だと思われる。(これはうちの親というより、うちの親の「世代」特有の問題だと思う)。

僕が見る限り、SNSで陰謀論にハマってしまう人たちのもつ知覚・知性には以下の脆弱性がみられる:


1. 過度な一般化バイアスの傾向

2. 情報ソースがSNSに閉じられ、イデオロギー化していっている

3. 客観性よりも主観性のウェイトが重すぎる

4. pros and consの概念を教育されていない

5. 論理的思考能力が弱い(どちらかというと感性的、A=A, B=B)


まず、1. 過度な一般化バイアスの傾向がみられる。例えば、

A. 国土交通省のスキャンダルが1件あった(+ネットで国土交通省のネガニュースをみた)→ 国土交通省全体が「悪」である。

B. SNSでロシア支持の情報がTLで流れてきた→ ロシアは正しい。世間のロシアたたきは間違っている。

C. 日本にいる在日韓国人の犯罪が何件か報道された→在日韓国人=犯罪

D. 小保方晴子のスキャンダルがあった→ 早稲田はクソ、剽窃

これらは「過度な一般化」である。一部の外れ値や少数のサンプルをみて、そのままそれがその属性全体の特性であると決めつける「バイアス」の一つであるが、これに陥りやすい。

まして、YouTubeのKYCは(きな臭い情報商材のコマーシャルを平気でパスするくらい)ゆるく、しかも見た番組と似通ったものをどんどんサジェストしてくるので、たまたま近くにあった主義主張をどんどん深化させていく、ということになる。(これが機械学習の恐ろしいところである)

だが、もちろん世の中というのは彼らが考えているほどに「シンプル」ではない。世界はより複雑であり、単純化して世界をとらえる・・・ということはそれは嘘を信じているのと変わらない。

「これは正義だ!」「これは悪だ!」というのを見切り発車で信じ込むというのは知性ではないのである。

Aについては、まずそもそも国土交通省の行っている9割の地味な業務や実態について把握するというのはとても学習コストがかかる。なのでわかりやすいスキャンダルにとびつき、レッテルを貼る・・・というのが楽ではあるが、関心はしない。

Bについても危険である。ロシアが嘘情報を大量に流して自由主義国家の投票をハックしてきた(その成功例の最たるものがトランプ選挙)というのは欧米ではもう既によく知られた事実である(でなければシリコンバレーがトランプのアカウントを締め出す・・・などという暴挙は行わない)。これはSNSの「真実を語るYouTuberやツイッターアカウント()」の発信ではなく、上記リンクのように既にメディアや当事者の告発(Mindf**k)で裏が取れている。

ロシア(クレムリン)にはかつて「嘘をばら撒き、例えば日本人のアカウントになりすまして執拗に嘘を繰り返す(数で勝負)ことで自国に有利に導く」という行動パターンがあり、これを「偽情報」と呼ぶ。記憶に新しいのはゼレンスキーがすでにキエフにいない、といったロシア側の発信や、フェイスブック上で本人の偽動画を作った件だ(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN177EW0X10C22A3000000/)。

今回、国連の決議でロシアの侵攻を支持したロシア以外の国は「北朝鮮」含めて「4カ国」で、141カ国が非難決議に賛同している

(https://www.asahi.com/articles/ASQ330RCCQ32UHBI025.html)

なので、今回のロシア側を養護するような言説に与するというのは、「北朝鮮」と同じスタンス、ということを意味する。

そのため、SNS上で散乱する「多数に見える少数」の執拗な「ロシアの主張を拡散するための発信」には、慎重になったほうがよいと思われる。

CやDについても同じで、結局「早稲田大学という属性は、一定の難易度の試験にパスして一定の学問を享受する機会を受けられる、というものの象徴にすぎず、一部の早稲田卒の某のスキャンダルに便乗して、早稲田全体一族郎党にレッテルを貼る・・・というものはやはり滑稽な反知性であるし、

Dについても、まったく同じである。人種や民族は入れ物に過ぎず、そのなかの一部の人間が行った行為について人種民族全体にレッテルを貼る、というのは(今回ロシア国民や在日ロシア人全体に罪をかぶせるくらいには)ナンセンスで愚かな反知性的行為と言えるだろう。(また、このデマが震災時にマイノリティに悲惨な危害を加えたことを、我々は忘れてはならない)。

2. 情報ソースがSNSに閉じられ、イデオロギー化していっている

コーヒーハウス効果というものがある。これは、実際に執拗に極端な意見(嘘)を発信しているのは、ごくごく少数の「政治的・イデオロギー的・金銭的」意図をもった個人であり、そういう人間はマジョリティではない、ということである。ツイッターなどにつけられた政治的なハッシュタグなどが、その一例とも思われる。(全部とは言わないけれども)

情報ソースがSNSに閉じられることのリスクは、それが誤情報であったり偏った人間の嘘の発信であったとしても、それの信憑性が客観的に担保されないことである。周知の通り、SNSで拡散される度合いとその情報の信憑性は、必ずしも一致しない。むしろ、刺激度やわかりやすさのほうが優先される。

人間は楽をしたがる生き物であるから、この性質によって「インパクトの有るデマ」に流されるようになる。だが、本当のファクトというのは一次情報を地味に、忍耐強く検討していくことにしか存在しない。

外国のスパイもチョムスキーも、基本的にファクトを集めるときにはまず新聞や(査読の通った)論文から手をつけるのである。これは、新聞や論文が間違えない、という単純な話ではなく、そもそもそこを抑えなければ「議論をするための最低限のリファレンス」がないことを意味する。

ワクチン関連でも、一次情報をすっとばして「一次情報はかくかくしかじか」と声高に主張するインフルエンサーの発言をそのまま受け売りする人が見受けられるが、それは単なる反知性であって、より正確な情報は一次情報にしか存在しない。なので新聞や公式機関の発信を丁寧にチェックせず、かつ時事に強い関心をもっている・・・という状態は「滑稽」で「頭の宜しくない」状態である。

結局ひとつの「思い込み」を「信じ込む」という形で時事について強い関心を抱くということは、それは「イデオロギー化」していくということであり、イデオロギー化していった人間の独白を延々と聞かされるほどに精神衛生上悪影響なことはない。(「信じ込んでしまった」人と会話をしても基本水掛け論にしかならないので、話題を変えるかやり過ごすしか対処法はない)

誰も連合赤軍や顕正会信者の演説を聞きたいまともな人間はいないのであって、自分がそういう状態になっているとしたら、それは赤信号である。

3. 客観性よりも主観性のウェイトが重すぎる

主観のウェイトが重いということは自身を客観視できていないということであるから、それだけドグマチックになるし、自己相対化ができないということはそれはより「客観的事実から遠い」ということを意味する(若干トートロジー的ではあるが)。

客観性とは、「斜に構えた時事的関心」ではないのであって、

「〇〇でないと、いいきれるかな?」

という言い方をする人間の多くは、そもそもその時事的なテーマについてろくに調べていないことが、私の直接見た経験上は多かったと思われる。

「〇〇でないと、いいきれるかな?」

という言い方の「まずさ」というのは、これは自分が10割調べることを放棄して、調べることをすべて他者に丸投げしつつ、自分が「優位にたとう」とする「知的怠慢」であるからである。

A「ユダヤ人は、犯罪者に違いないらしい!」

B「いや、証拠ないだろ」

C「証拠ないと、言い切れるかな?」

といった悪魔の証明をふりまわす知的怠慢を露出する人間にかまっているほど多くの人間は暇ではないのである。そういう知的態度は、単に「有害」である。

また、一定の時事的なトピックに「便乗」して自己の主義主張やイデオロギーを流布しようとする人間にも注意しないといけないのであって、こういう人間の特徴は「まともな公的機関や場所には」「相手にされない」ということである。

4. pros and consの概念を教育されていない

カントが発明した二律背反というのは、近代以降の国家の基礎的な思考のベースにあって、一つの事象についての「賛否両論」双方について自身で論をたて、その中から妥当な点を探っていくのが「理性」とされる。(dichotomy)

ただ、SNS上で「反ワクチン」から「ロシア愛護団体」という流れにいきついた多くの「インターネットにおける知的弱者」が、

自身のもっている事実認識と「真逆」の見解が(1)世界の大多数の意見であり、(2)政府の公式見解であり (3)立場の異なる新聞がほぼ共通して同意している共通見解である」という客観的なファクトから目を背けているように思われる。

例えば、ワクチンについて言えば

(1) 世界のまっとうな先進国のほぼすべてがワクチン摂取をコロナ対策の正式な政策として実行している(https://www.nytimes.com/interactive/2021/world/covid-vaccinations-tracker.html)

(2) 政府の公式見解としては、ワクチンは「とるべき」と判断されている

(3) 異なる政治的スタンスの新聞社が共通して、ほぼ同じ結論に到達している:(新聞社は仲良し学生サークルではなく、腐っても情報のプロの集団である)

  朝日:https://www.asahi.com/articles/ASP303GK0P32ULBJ01T.html

5. 論理的思考能力が弱い(どちらかというと感性的、A=A, B=B)

論理的思考能力が弱いということは、前に述べた「過度な一般化バイアス」に陥りやすいということ、

Pros and Cons(一つの命題に対して双方向からアプローチしていく習慣がなく、飛びついた片方をひたすら繰り返し強化していくこと)など諸々の要素がかさなり、誤情報やデマにどんどん深くハマっていき、闇落ちしていく。

親父の悪口を言うきはないし、親父はいい人ではあるんだが、僕が「利上げと住宅ローン」の話を出したときに「日本経済は今の日銀で悪くなって・・・」みたいな切り出しをしていたが、「利上げ」は基本「市場にお金が出回っている=景気が良い」ときの締付けで行うものであり、低金利・マイナス金利は景気が良くないときの経済対策である。だからそもそも人の話を聞いてない(=議論の前提となる最低限の知識がない)のに強い主張だけはそこにある・・・という印象を受けた。

(うちの親父はたぶんアーティスト気質ではあるんだけど、ここ近年悪い意味で時事に悪ハマりして空回りしているきらいがあり、それでいろいろとネガティブなものを寄せつけている気がする。少なくとも時事についての才能はないと思う・・・・)

これらのことから、彼らの信じているある種の「宗教」は、まっとうな情報源からまっとうなアプローチをすれば一つ一つがファクトによって否定されていくものではあるが、SNSでは「質の低い情報・嘘」と「信頼性の担保できる情報」の濃淡や大小・重み付けが考慮されないため、どんどんモンスター化していくようになり、現在のSNSの「使い方を間違えた」高齢者層の陰謀論に拍車をかけている状態になっている。

これは、現在非自由主義陣営(特にロシア)に上手に使われているのであって、今このご時世でプロ・ロシアの発信をすることがいかに「愚かである」ことかを示唆している。

そんなかんじで。

冗い嘘には気をつけましょう

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